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Route-8 宗谷岬以降②

HOME > Route-8 宗谷岬以降> 1981年8月23日
(8月23日の続き)

見知らぬ街で…。いやいや、テレビドラマじゃあるまいし、そんなにウマくはいかない。

北海道 帰り道

水害のために終点となった旭川駅に到着したのは、夜の9時前だった。
駅の構内には、たくさんの巨大ミノムシ(寝袋の大群)が、そこかしこに…というよりも、構内いっぱいに転がっていた。外は台風。ここ旭川駅は予定外の終着駅。きっとみんな行き場を失ってしまったのだろう。
僕は、寝袋は持っていないがお金は持っているので、ホテルを探すことにする。駅の構内の公衆電話は、何台もあるがどれもみんな使用中で、うしろに人が並んでいる状態だ。諦めて外に出ると、雨は降っていないが、そのかわりすごい風が吹き荒れている。輪行袋を抱えて歩いていると、風をはらんで足が宙に浮き、吹き飛ばされてしまいそうだ。

公衆電話を見つけ、電話帳をめくった。旭川のホテルに片っ端からかけるつもりだったが、運良く2軒目にかけた「旭川ワシ○トンホテル」で簡単に予約がとれた。ホテルまでの道順を訊いて電話を切った。
重い輪行袋を抱えたまま、暗い夜道を、ホテルの場所を探して歩き続けるのはホネがおれるので、歩道の街灯の下にくくりつけて鍵をかけておくことにした。ホテルを見つけたら改めて取りに来ることにする。

身軽になったところで、教えてもらったホテルへの道順をたどろうとウロウロしていると、暗がりを歩く、どこかで見たような3人組の男たちの姿を発見した。
『おや?もしかして…??』
と思い、前に回り込んで顔を見ると、ヒゲづらと目が合った。

あーーーーーっ

豆壱郎:「あーーーーーっ!」
3人組:「あ゛~~~~~っ!!」

お互いが指を差しあって、驚きの声を上げた。やっぱり宗谷岬で会った石川さんたちだ。
(キモいが)男同士抱き合って、再会を喜び合った。それにしても信じられない。ここで出会ったのは、本当に偶然としか言い様がない。奇跡に近いと言ってもよい。もし彼らも列車で移動したなら、きょうは台風のためここ旭川が終点になってしまっているので、ここまでしか移動できないのは納得できるし、ここで再会もありうる。でも、彼らは僕より5時間以上早く南稚内を出発したはずだし、しかもバイクだ。こんなところでウロウロしているとは思いもよらない。おそらく台風の中をこれ以上走るのは嫌だったのだろう。

ウイング氏:「どうしたのー? なんでこんなとこにいるんだよ」
豆壱郎:「いやあー、乗るつもりだった急行「天北」が水害で運休になっちゃってて。で、鈍行でやっとここまでたどり着いたワケなのさ」
ウイング氏:「へえー。そうだったんだー。きょうは?これからどうすんの?」
豆壱郎:「なにしろここで無理やり降ろされちゃったから、もう8時だし、ここ(旭川)で泊まるしかないよ」
ウイング氏:「そう。じゃあ一緒に行こうよ。オレたち駅で野宿しようかと思ってんだ」
豆壱郎:「え?いや、僕、今ホテル予約しちゃったから…」
ウイング氏:「うっっわ~~っ!リッチな野郎~~!いいなあ~。オレたち野宿…差が出るなあ」

強風のさなか大声で騒いでいるとき、僕の横で、ビルの陰に隠れるようにして、風をよけてさっきからずっと一人で立っている女性がいた。歳の頃なら22~23ってとこか。ウイング氏がその女性を見つけて、
ウイング氏:「カノジョ~。何してんの?…あれ?もしかして、連れ??」
と、僕と彼女を交互に指さした。僕のすぐ横にいたので、知り合いと思ったらしい。
豆壱郎:「いやいや、違うよ」
手を振って否定した。
ウイング氏:「あ、違うのか。ふう~~ん、…でも、お似合いだよ(ニタニタ)」
冗談でも悪い気はしない。僕もニヤついて、
豆壱郎:「あ、そうお?…じゃあこの際、連れということになっちゃいましょうか。さっき予約したホテル、一緒に行く?」(大胆な誘い!笑)
ウイング氏:「あ~あ、ホテルでもどこでも行ってくれよ。オレたち邪魔者はさっさと消えるから」
と言って、彼らは駅のほうへ歩いて行ってしまった。

彼女:「あの人たち、お友だちなんですか?」
と彼女が訊いてきた。
豆壱郎:「宗谷岬で会ったばかりなんですが、偶然ここで今再会して…。ところで、ホントなにしてるんですか?こんなところで」
彼女:「人を待ってるんです」
豆壱郎:「こんな台風の中?…もしかして彼氏??」
彼女:「ええ」
(あたーーっ(-_-;)やっぱりな。そんなことだと思った)
豆壱郎:「だって、さっきからだいぶ経ってるけど、来ないじゃない。かなり待たされてるんじゃないの?」
彼女:「そうなんですよ」
豆壱郎:「そんな男ほっといて、僕と一緒にホテル行きましょう」
(今思えば、すごい大胆かつダイレクトな誘いだ。しかし、もちろん本気で誘っているわけではない。冗談に決まっているでしょう?でも半分、あわよくば…という気持ちも無きにしもあらず…)
彼女:「え?ホテルって、あのネオンがキラキラしてる…?」
(こいつもなかなか言うじゃないかっ!)
豆壱郎:「いやいや、ちゃんとした立派なホテルですよ」
(だとしてもすることは同じだよっ!)
相変わらず風がビュービューと吹いていて、ビルの看板がグラグラと揺れているところがあったりする。落ちてこないかと心配だ。
彼女:「こんな強い風の中だから、なんかバカみたいにこうやって冗談が言えるんですよね」
豆壱郎:「そ、そうですね」
(いんや、冗談は半分だけだゼッ!)
彼女:「もう少し時間いいですか?」
(オッ??ホテル行く気になったのか?)
豆壱郎:「いいです、いいです!」
(つい、目が光ってしまう)
彼女:「彼が来るまで少しお話しませんか?」
(ガク~~~!)
豆壱郎:「え?ええ、いいですよ」
(フンッ!どうせ僕はピエロですよっ)
彼女:「ところで、どこから来たんですか?」
豆壱郎:「徳島です。自転車で日本縦断して、きのう最終目的地の宗谷岬に着いたばっかりなんです」
彼女:「へえー、すごいんですね」
豆壱郎:「いや、ぜんぜんすごくないですよ。あなたは地元のかたですか?」
彼女:「あたし、上富良野なんです。わかります?ここからちょっと南、ラベンダーの産地で有名なんですけど…」
豆壱郎:「ああ、あそこね。わかりますわかります。そうなんですか。そんなところから、わざわざこんな台風の日に彼氏に会いに来なくても…。来ないじゃないですか、彼氏。そんなやつ、もう別れちゃいなさい」
彼女:「ええ。もう別れるんです」
豆壱郎:「え゛??ホ、ホントに別れるんです゛か゛ー?」
また僕の目が輝いてきた。
彼女:「ええ。で、次の相手もちゃんと決まってるんですけどね」
豆壱郎:「……………」
絶句!
なんちゅう女だ。…と思ったが、別に今どき珍しくもないか。この彼女は、冗談で言っているのかもしれないが、全部ホントのことだったとしても、なんら不思議ではない。女はしたたかだ。
豆壱郎:「彼氏、来ないね。ホテル行く?」
(まだ言ってる)
彼女:「あたし、そんな女じゃないですよ」
(あ、ちょっとシツコ過ぎたかな)
彼女:「そうやって、行く先々でオンナ口説いてんでしょ」
豆壱郎:「そほほほほんなことないよ。いや、ま、出発前には多少考えてたけど…」
と、ここまでしゃべったとき、ついに彼氏が現れた。彼女は、サヨナラも言わずに男に肩を抱かれて立ち去った。去り際に、男が一度だけ僕のほうを振り返った。『オレの女に手を出すな』とでも言いたげな顔をしていた。彼女が『別れるつもり』でいるとも知らずに。
(まあ、彼女がほんとに別れるつもりでいるかどうかも怪しいが…)

僕はまた一人になった。
トボトボと、電話で教わったホテルへの道を歩いた。旭川ワ○ントンホテルは、ほんの数分のところにあった。チェックインを済ませ、フロントに訊いてみた。
豆壱郎:「ちょっと大きな荷物があるんですが、預かってもらえますか?」
フロント:「何ですか?」
豆壱郎:「自転車です。分解して袋に詰めてあります」
フロント:「こちらのクロークでお預かりします」
よかった。とりあえず荷物を置くため、部屋に入った。ため息をつきながら、ベッドにドスンと腰を下ろすと、一気に疲れが出た。ようやくここまでたどり着いたのか。落ち着いたら急におなかが悲鳴を上げた。そういえば、昼前に南稚内で食事をして以来、もう10時間もなんにも食べていない。自転車を取りに行くついでに食事もしてこよう。

遅い夕食を食べた後、再び旭川駅前に戻ってくると、街灯にくくりつけた輪行袋は無事だった。無事を確認したうえで、駅まで行ってみた。石川さんたちに会うためである。駅の構内は、ミノムシだらけだったが、その中に彼らの姿は見つからなかった。外に出てみると、自転車置き場の横に、段ボールを下敷きにした見覚えのあるミノムシが三体並んでいた。ラジオをつけたまま眠っている。

豆壱郎:「もしもし、ラジオがつきっぱなしですよ」
すると、ウイング氏が寝たまま、
ウイング氏:「う~~ん、…あっちの人に言って下さい」
と、寝ぼけ声。僕のことにはまだ気づいていない。となりで石川さんは大いびき。
豆壱郎:「お~い。僕だよ僕。わかんない?」
そこまで言うとウイング氏はようやく顔を上げて、眠い目をこすりながら僕の顔を見た。
ウイング氏:「…………。…わかった。……」
人が気持ち良く寝ているところを起こしやがって…という顔をしている。
ウイング氏:「さっきのコ、どうなったの?」
さっきのコというのは、駅前で会ったしたたかな女性のことを指しているのだろう。
豆壱郎:「彼氏を待ってた」
ウイング氏:「チェッ、なんだ」
豆壱郎:「そんなにうまくいくわけないよ。ねえ?」
と、3人組のうちのもう一人の男に話しかけた。
もう一人の男:「そうやね。オレもおととい、女の子をナンパし損ねた。むこうも旅行者やって、ひとり旅で連れおれへんかったから、いける思ててんけど、ちょっとしたスキに、『じゃあねっ!』って行ってもた」
豆壱郎:「ははは…、そりゃ残念やったね。あれ?おたくどこから来たの?」
もう一人の男:「神戸」
豆壱郎:「やっぱりね。ひとりだけ関西弁だから。そのアクセント聞くと安心するなあ」

石川さんのいびきはますます大きくなっている。これ以上長居して彼らのつかの間の休息を妨げてはいけないと思い、そろそろ退散することにした。
豆壱郎:「じゃあ、僕はホテルに帰るから。あしたの予定は?」
ウイング氏:「あしたは札幌」
豆壱郎:「僕も札幌。また会うかもしれない」
ウイング氏:「ははは、ほんとだ」
豆壱郎:「それじゃ、あした札幌で…。またね」
彼らとの、本当に最後の別れであった。(翌日、札幌で泊まったが、さすがにもう彼らの姿を見つけることはなかった)

さあ、ホテルに戻ろう。輪行袋をかかえて歩いた。たかが数百メートルの距離、わざわざ組み立てるのも面倒だ、このまま歩いたほうが早い。と思ったのは考えが甘かった。さっきは手ぶらだったので、ホテルにはすぐ着いたが、今度はこの輪行袋がだんだん肩に食い込んできて、ホテルまでの道のりはものすごく遠く感じられた。

ようやくホテルに到着。輪行袋はクロークに預け、部屋に戻った。ひと働きしたためか、またまた腹がへってきた。いったいどうなってるんだ、僕の胃は…。

午後11時30分、再びホテルを出た。何のためにかって?…もちろん、食事のためさ。(笑)

本日の出費 合計10,320円
国鉄運賃(南稚内~旭川) 3,100円
手回り品切符 170円
めし 500円
ホテル 5,100円
めし 380円
電話 100円
電話 20円
めし 750円
ゲーム 100円
テレビ 100円

※金額は1981年当時の実際の金額です。

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