もっと早く気づけば良かった。
1981年8月16日(日)
-晴れ-
午前7時30分起床。起床時間というのは僕の場合、日によってまちまちだが、だいたい8時前後。ちょっと寝ぼすけ。ユースホステルの場合は朝が早いので、6時なんてのもある。ビジネスホテルはいつまで寝てても誰もなんにも言わないので、ついつい安心して、9時ごろまで寝ていることもたびたびだ。また、激しく疲れた日の次の朝も、比較的起床時間は遅い。起きられない。もともと朝に弱い僕は、もっと眠りたいと思う日も何度かあったが、いや、かなりあったが、いやいや、ほとんど毎日思っているが、出発が遅れれば、それだけ走行距離が短くなってしまって、結果的に延べ日数が増えるか、あるいはその分を補って夜がキツくなるか、いずれにしろ、日本の国土が小さくなるわけじゃないし、走る距離は変わらないのだから、少々眠くても自分の身体にムチ打って起きなければならない。
朝食にありつけたのは、午前9時20分を回っていた。今朝のビジネスホテルには食堂がなかったので、出発してからどこかで食堂を探そうと思っていたのに、きょうは閉まっている店が多い。お盆で日曜日だからだろうか。こういう日に限って、食べてもすぐ腹が減る。いや、きょうに限ったことではないなあ。最近、どうも腹が減ってしようがない。それだけエネルギーを消費している証拠なのだろうが、異常なくらい空腹感が襲ってくる。
正午、我慢できずに食堂に飛び込み、定食を注文。このように、最近定食類を食べることが多くなってきた。もう単品では満足できない。
炎天下の山間部はまるで地獄の釜ゆでに入っているみたいだ。
きょうも天気が良いので大変暑い。炎天下である。東北といえど、ちっとも涼しくない。徳島で計画を練っていたころ、北に向かって行くにしたがってだんだん涼しくなってくるであろうから後半が楽になるかな…などと考えていたものだが、とんでもない勘違いであることに気がついた。考えが甘すぎるんだよ! はっきり言って東北も暑いのだ。そして、関東を過ぎてからはずっと山間部ばかり走っている。いや、振り返ってみると、鹿児島を出発してからというもの、ここまで平地はあまり走っていない。それほど日本に山が多いということなのだろうが、自分のとったコース自体、海岸沿いの道はあまりない。これはどうも山間部を中心にコースどりした自分に責任があるようだ。自業自得である。なぜこんなコースになったかというと、全都道府県走破を目論んだことに原因がある。日本海側と太平洋側を両方走るために県境を重点的に走ると、どうしても日本の中央部(山間部)を走らざるを得なくなる。もっとも、全都道府県走破を断念した今となっては、全然意味がないが…。
主寝坂峠というのを越えて、ささやかなダウンヒルを下ったところに、「及位」と書いて「のぞき」と読む珍しい地名があった。山岳修行で修験者たちが「のぞきの行」といわれる修行を積んでいたといい、「高い位に及んだ」ことがその由来だという説があるらしい。
変わった地名は日本各地にたくさんある。集めると結構面白そうだ。
ここからまたすぐ登りになった。自動販売機でスポーツドリンクを買っていると、自転車にバッグを5個つけたサイクリストが、苦しそうに坂を登っていく。手を上げて挨拶をした。僕はスポーツドリンクを飲み干してから、ゆっくり登りはじめたが、こちらは身軽なロードレーサー、すぐさっきの男に追いついた。フル装備のキャンピング車では、登り坂はかなりこたえるだろうが、焦らずマイペースという感じだ。追い抜きざま、
「がんばってください!」
と声をかけてお先に失礼した。
(当時の写真ではありません)
雄勝峠のトンネルを過ぎると、山形県とはおさらば。ここから秋田県である。なんだかきょうは一日が長い。苦闘の末、横手市に着いたのは、午後5時20分だった。またこれから宿を探さなければならない。もういやになる。(だったらヤメローー!)
ふと、名案が浮かんだ。ぐるぐる探し回らなくても、電話帳で調べて、片っ端から電話しまくればいいじゃないか。
なんでこんな簡単なことに今まで気がつかなかったのだろう。
きょうまで毎日毎日、宿探しにどれだけ無駄な時間を費やしてきたか。もっと早く気がついていれば良かった。
早速電話ボックスに入った。電話帳をめくり、横手セント○ルホテルというのを見つけた。すぐさまダイヤルを回す。
豆壱郎:「すみません、きょうシングル空いてませんか?」
フロント:「空いてますよ」
豆壱郎:「あ、そうですか。よかった。ちょっと場所を教えていただけますか?」
ラッキーー!こんなにうまくいくとは。それに、この手だと、汚い服装を見て断られる心配もない。ヘッヘッヘ!
豆壱郎のちょっと一言
何度も言うが、1981年当時はインターネットもタブレットもスマホも携帯電話もPHSもなかった。ホテルは市内中心部から少し離れた所にあった。フロントで手続きをして、411号のルームキーをもらって部屋に入る。なかなかキレイなところだ。これで室料3,700円と朝食600円は安い。
午後6時20分に夕食を食べたのだが、すぐまた腹が減ってしまう。ビョーキか。しかたないので、近くのパン屋さんで菓子パン2個を買う。すぐには食べず、夜10時頃ホテルの自分の部屋で一人黙って食べる。
でも、きょうは「革命的なホテル探しの大発見(そんな大げさな!)」をしたので、結構満足。