自転車日本縦断 広い日本そんなにゆっくりどこへ行く。

自転車紹介

苦楽をともにした2台の自転車。
僕を支えてくれた英雄たち。

自転車日本縦断に、2台の自転車を乗り継いで行った人はあまりいないと思う。

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長距離用の自転車に要求される最大の要素は何か?それはもちろん堅牢性である。どんなに速い自転車でも、またどれほど楽に走れても、すぐ壊れてしまってはなんにもならない。遠い目的地まで確実に働いてくれる、信頼性の高い自転車でなくては駄目だ。
記録を狙うなら、スピードも要求される。目的地に1分1秒でも早く着かなくてはならない。当然使用される自転車は、ロードレーサー(近年ではロードバイクという言い方が一般的だが、1981年当時はロードレーサーと呼んでいた)が最も適していよう。
別に急ぐ旅でもないなら、少しでもたくさん荷物が載せられるランドナーだ(ランドナーとは、小旅行用自転車のことだが、近年はほとんど姿を消している)。つくりはとても頑丈で、長距離走行しても疲労が少ないだろう。また、多量の荷物にも耐えられ、悪路なども走破できる極太タイヤは、過酷な条件下でも信頼性が高い。最近では、MTB(マウンテンバイク)を利用する人も多いと聞く。

一般的には、日本縦断にはロードレーサー、日本一周にはランドナー(近年ではMTBなど)という使い方が多いと思われる。それぞれの旅の性格を考えた場合、当然の選択であろう。僕も当初、ロードレーサーしか頭になかった。それが当然と思っていた。ところが、当時、雑誌「サイクルスポーツ」で、16インチのミニベロという自転車が紹介されていたのを見てから、猛烈に欲しくなった。そして、とんでもない野望を抱いてしまったのである。

 

ミニベロ

ミニベロ
VIVALO製 16インチ

ミニベロとは、タイヤの径が小さい自転車のこと。(フランス語由来らしい)
タイヤが小さいため、よく折りたたみの自転車と間違われることがあるが、この自転車は折りたためない。
また、小柄なイメージがあるが、小さいのはタイヤと全長だけで、それ以外の部品は普通の自転車と同じか、むしろ前ギヤやフレームなどはかえって大きい。
ミニベロのメリットはほとんどなく、強いて言えば見た目が「かわいい」ことぐらいか?
逆にデメリットならいくらでもある。
そんな自転車を日本縦断の手段として選んだのは、僕の“最大の失策”としか言いようがない。よくもまあこんな「走らない」自転車で、日本列島を南の端から北の端まで走ろうなどと思ったものだ。事実、600キロしか走れなかった。この自転車では完走できなかったのである。
でも…。デキの悪い子ほどかわいいものだ。このミニベロはたしかに「走らない」自転車ではあるが、僕にとってはとにかく「かわいくてしかたがない」自転車なのだ。

「日本縦断大計画」のページでも紹介したとおり、僕はこの「超~変わった自転車」で日本縦断をする決意をした。当時、この手の自転車はほとんど市販されてはおらず、一部のオーダーメーカーで製作されたものしかなかった。行きつけの自転車屋さんに相談し、フレームの製作は、明石にあるオーダーメーカー「日下製作所(VIVALO)」さんにお願いすることになった。

フレームフレーム:丹下チャンピオンNo.2(クローム・モリブデン鋼)
フロントフォークが極端に短いのとタイヤ径が小さいため、路面からのショックを吸収できず、ガタガタ道を走ると結構振動がハンドルに伝わってくる。塗装はクロームメッキの上に金の塗装だが、VIVALO特製のかなり特殊な加工が施されていて、表面は細かいしわ模様が入っている。太陽の光が当たると黄金に輝く。
前ギヤ前ギヤ:TAシクロツーリスト64T
普通の自転車は48~53ぐらいが一般的。ミニベロはタイヤ径が小さいため、ギヤ比調整のためにこんなに大きなギヤ板を使わなければならない。また、ミニベロはこの前ギヤと後ろギヤとの距離が短いので、チェーンのたわみの量を稼ぐことができず、結果、前ギヤには変速機をつけることができなかった。
チェーン チェーン:セデス
普通の自転車に比べ、前ギヤと後ろギヤとの間隔が短いため、たわみの大きい、柔らかいチェーンを使用。
チェーンブレーキ:マファック・クリテリウム
当時、カンティレバーブレーキの定番中の定番だった。
チェーンサドル:ブルックス・プロフェッショナル
革製サドルといえばブルックスというほど、当時の定番中の定番。使えば使うほどお尻の形になじんで、ピッタリとフィットする。ただし、サドルオイルを塗ったり、雨の日には濡れないように気をつけるなど、手入れが面倒。
チェーンリヤ変速機:サンツアー・シュパーブ
ミニベロでは特に地面との距離が近い部品であるため、悪路走行や、路側帯にぶつけたりして破損しやすい。シマノ・デュラエースとどちらにするか悩んだが、少しでも地面から遠くなるサンツアーを選んだ。(デザインも好きだった)

16インチ車は、絶対に26インチ、27インチ車にはかなわない。しかし、フレームやパーツ類を吟味することによって、かなわないまでも、可能なかぎり性能を高めることはできるのではないか、と考えた。いや、そうなってほしいと期待していた。
さて、16インチの自転車が実際にできあがって、いざ走ってみると、予想どおりというかそれ以下というか、とにかくその走行性能の低さに驚いた。なかなか前に進んでくれない。特に、登り坂が全然だ。ある程度の性能を期待していただけに、この結果にはずいぶん落胆した。

普通、この自転車を見た人はみんな口をそろえてこう言う。
「そんな小さなタイヤだから、普通の自転車よりもっとペダルを回さないと進まないのでは?」
いや、そんなことはない。タイヤの径とギヤ比を計算して、チェーンホイール(前ギヤ)の歯数、スプロケット(後ろギヤ)の歯数をベストな値でセットすることにより、ペダル一回転で進む距離を、普通車と同じにすることは可能なのである。つまり簡単に言えば、前のギヤを大きくすればよいのだ。
しかし実際には、計算上のギア比だけの問題ではなく、ころがり抵抗や、摩擦抵抗、回転マス、慣性、その他いろんな要素がたくさん絡まり、思っているような性能を発揮することができなかった。予想以上にペダルが重い。これは、実際に走ってみてはじめてわかったことなので、ショックは隠しきれなかった。

結局、このミニベロで走ったのは、沖縄・九州・四国の合計600キロほど。全体の約5分の1にすぎないが、それでも僕にとっての日本縦断は、このミニベロを抜きにしては語れない。

 

ロードレーサー

ロードレーサー
ケルビム製ロードレーサー

文字通り、レースのための自転車である。不要なぜい肉はすべてそぎ落とされ、洗練されたフォルムは機能美を感じさせる。しかし、あくまでレース用であるため、ツーリングには不向きだ。

(1)まず、タイヤはたいへん細く頼りない。700C×25Cという細身で、福島で太めのタイヤに交換するまでの間、実に7回ものパンクに泣かされた。
(2)荷物を取り付けるスペースはほとんどなく、わずかにサドルの下が空いているだけである。サドルキャリヤーは長期間の使用で壊れ、垂れ下がったバッグがタイヤに触ったりした。
(3)ドロヨケを装備していない。旅行中は晴れの日ばかりではない。雨が降ると、前輪のドロはねは顔にかかり、後輪のドロはねは背中に線を書く。不幸にも路面に落ちている犬のウピーチなどを踏むと…。
…などなど、ロードレーサーの悩みはたくさんある。
とはいえ、走っているときはやっぱり速い。ミニベロとは雲泥の差だ。一日の走行距離は飛躍的に伸びた。おそらくミニベロでずっと走っていたら、きっと完走することができなかっただろう。

豆壱郎は、このほかにランドナー(旅行用自転車)も持っていたのだが、なぜランドナーを選ばなかったかというと、荷物を多く積まないのならロードのほうがはるかに楽だと思ったからである。ロードレーサーはスピードが出るということはもちろんだが、とにかく楽をして距離が稼げるのだ。すなわち、完走率が高くなる。豆壱郎は、ロードに乗り換えた段階で、とにかく日本縦断完走に照準を合わせたのだ。

二つの異なった自転車を乗り継いで日本縦断をした人は、おそらくそう滅多にはいないだろう。
今思えばこれも貴重な体験と言えるかな?(笑)

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